■パニック障害は誤解されている
パニック障害について数多くの書籍が出版され、インターネットなどでも様々な説明がされています。しかし、それらの中には著者自らが直接パニック障害の治療や指導を行っていないで、他の書籍から文章を引用し「パニックとは...」と説明しているものも多く見受けられます。ここでは、臨床心理の専門家である新田和也 が、40年間で1万人近い臨床経験を通して明らかにした『パニック障害の正体』について述べていきます。
最近のテレビや新聞、雑誌などの広告媒体では、「パニック障害は薬でコントロールできる」と言われています。しかし、現実にはずっと薬を飲み続ける必要があるとか、外出できるようになるには1年2年という期間が必要なのだということはほとんど知られていません。現代医学の治療ではなぜ薬を飲み続けなければならないのか、なぜ完治することができないのか。その最大の理由は、症状を薬で一時的に抑えたり、手術で体の病的変化の起こっている箇所のみを取り除く、いわば対症療法が行われる為、症状が起こる根本的な原因は解決されないことにあります。
多くの人は、精神科や心療内科の医師は心理学などの専門家だと思っています。医学部の履修科目に心理学や臨床心理学、深層心理学、心身医学の科目がないことや、外科も内科も眼科も精神科も産科も全て同じ勉強をすることについても知られていません。医学部では、身体の病気について医学的に勉強し、その検査法や薬の処方や手術技法などを勉強しているのです。この医療制度が心で起こる体の病気について誤った解釈をし、間違った治療をしてしまうことになるのだと考えています。
ここでは、パニック障害から完全に解放されるために、パニック障害の本当の姿を正しく理解していただけるよう、精神科医や診療内科医のパニック障害についての考え方や治療法を検証し、戦略的短期療法との違いを具体的に示しながら説明していこうと思います。
■パニック障害の本当の姿
1.パニック障害ってどんな病気?
パニック発作を起こす人は、電車やバスの中である日突然息が苦しくなったり、胸がドキドキしたり、血の気がスーッと引いて冷や汗が出るなど、理由もなく発作に襲われ慌ててその乗物を降りてベンチで休んだり、家族に迎えに来てもらったり、あるいは倒れて病院に運ばれるというようなケースがほとんどです。
しかしよく考えてみると、このような出来事は日常茶飯事です。学校の朝礼で気分が悪くなって立っていられなくなった、人ごみの中で具合が悪くなって座り込んだなど...実際、私自身にも経験があります。山手線の電車の中で、突然血の気がスーッと引いて気持ち悪くなり、視野が狭くなってきて周囲の騒音が遠のいていき「変だな...」そう思った瞬間、気絶しました。気づいた時には床にベタっと座り込んでいました。その後、新幹線の中でもまったく同じような症状が起こりましたが、なぜか便意を催してトイレにしゃがんでいるうちにすっかり症状は鎮まってしまいました。思い返してみると、幼児期の頃はなぜか注射を打つたびに脳貧血のように倒れたり、歯医者での治療中に意識を失ってしまうようなことが度々ありました。実は、これらの症状はパニック障害の人が訴える内容と同じなのですが、私自身はパニック障害になっていません。
ある人は、家に一人でいる時に喘息発作に襲われました。息が吸えない感じがして息苦しくなって、「このままでは死んでしまう」と、死の恐怖を感じたと言います。また、冬の寒い晩、徹夜続きで最終電車に乗って家路を急いでいた男性は、急に目の前が暗くなり、胸がギュッと締め付けられる激しい動悸に襲われ、冷や汗が出てそのまま倒れてしまうのではないかという恐怖に襲われたと言います。しかし、彼はその場をなんとかしのいで家に辿り着き、奥さんに一部始終を話したそうです。また、ある人は暗い映画館の中で照明が落ちて映画が始まった途端、急に烈しい息苦しさに襲われ、息が足りない感じで呼吸が荒々しくなり、やがて手足がしびれて、頭がぼんやりして、目がかすんで映画どころではなくなり、思わず会場を飛び出したとい言います。よく言うところの過呼吸症候群です。しかし、彼女は外に出て一息つくと大分具合が良くなり、また会場に戻って映画を楽しんだとい言います。
上記の例は、いずれもパニック障害の人が訴える症状とよく似ています。しかし、これらの人たちもその後一切後を引くこともなくパニック障害になっていません。こうしたことから考えてみても、上記のような身体症状が突然起きたからといって、必ずしもパニック障害になるのではないことがわかります。むしろ、同じような症状が出てもパニック障害にならない人の方がはるかに多いのです。
2.パニック発作の原因は?
パニック障害は病院でいくら検査しても身体的には何の異常も見当たらないので、いまだに原因が解明されていないと説明しています。これが従来の考え方です。ただ、恐怖や怒り、イライラなどの強い攻撃性などの強い衝動が起きた際、その衝動を鎮める働きをするセロトニンという脳内ホルモンが何らかの原因で不足しているので、精神的なものではなく機能的な病気である。ただ、なぜセロトニン不足が起きるのかについては、さまざまな環境要因が重なる事で脳の機能障害を来たす為であり、その環境要因としては①養育環境(早期の親の死・離婚・虐待など)②さまざまな生活上のストレス(仕事上の失敗、失恋、受験の失敗など)が挙げられる、と説明しています。
しかし、この説明には大きな矛盾があります。パニック発作の原因は脳内ホルモンのセロトニン不足だと言いながら、セロトニンが不足した原因は育った環境や生活上のストレスという精神的なものだと言っている点です。
ところで、現代病としてここのところ大きくとりあげられているうつ病は、このセロトニン不足の代表的な病気の一つです。失恋や失業、配偶者の死など大きな精神的喪失感からうつ病になった患者を、パニック障害はセロトニン不足が原因だと言うのと同じように、セロトニン不足が原因でうつ病になったと言い切ることが果たしてできるでしょうか? 失恋の痛手やリストラされて落ち込んだからこそ、セロトニンが不足したのです。
つまり、セロトニン不足というフィジカルな問題が起こっている元はメンタルなものであると言っておきながら、メンタルな方にはほとんど目を向けず、パニック障害は精神的なものではなく機能的な病気であるといっているところに大きな矛盾があるのです。
また、ある日突然、パニック症状のような身体の不調に見舞われて、病院で色々検査をしても異常が見当たらないことから、自分は現代の医学ではまだ発見されていない何か特別な病気にかかったのではないかと、数多くの病院を回り歩く人がいます。また、健康オタクになってさまざまな健康情報を収集したり、サプリメントを飲んだり、体操に通ったりする人もいるのです。
しかし、こうした人たちは自分がパニック障害だとは全く自覚していませんし、パニック障害者が陥る症状は一切訴えたりもしません。また、失恋したり最愛の伴侶と死別して大きな心の痛手を負ってもうつ病にはならず、仕事や趣味に熱中してそれまで以上の豊かな生活を送っている人がいます。リストラされたのを機会に独立し、起業して成功する人もいるのです。
すなわち、過去にどんな肉体的な症状に襲われようが、またどんな精神的な衝撃に見舞われようが、それ自体は何ら関係ないのです。過去に親の死や離婚、虐待、あるいは恋人との別れを経験しようが、リストラされようがそのこと事態が症状を引き起こす直接原因にはならないのです。それらはただのキッカケに過ぎないのです。問題は、さまざまなできごとがあって、『そのことをどのように考え、どのように対処したのか』なのです。そのものの見方や考え方、あるいは対処の仕方によってまったく違った結果になるのです。
もし、機能的にセロトニン不足でパニック発作が起きるのだと考えたら、次の疑問が生じるのです。パニック発作は、信頼できる人と一緒であればパニック発作は起きません。また、満員電車には乗れないが空いている電車には乗れる人がいます。駅間の長い新幹線や特急電車には乗れないが、各駅停車には乗れるのはなぜなのでしょうか?セロトニン不足というだけでは説明がつきません。
これらは、親しい人が助けてくれるから...とか、駅間が短いから直ぐ降りられる...などの「安心感」が支えとなって症状が起きづらいのですが、これこそ“精神的な何か”が影響しているのであり、同じ電車内であるにもかかわらず症状が出たり出なかったり、まるでスイッチのようなものがあって、それが状況によってONになったりOFFになっているのです。
■なぜこのような症状が起こるのか
1.パニック発作は突然起きるのではない
パニック障害の症状には、セロトニン不足などの機能的症状と動悸や呼吸困難、吐き気やめまいなどの身体的症状と死の恐怖や予期不安などの精神的症状、そして逃げ場のない空間、自由がきかない状況を避けるなどの行動的症状があると考えられます。実際には誰でも生理的な低機能状態や自律神経のバランスが乱れた状態の時に起こる身体症状ではありますが、ほとんどの人はこうした前兆症状に気づいていません。また一般的にもパニック発作は特別な理由もないのにある日突然起きると思われています。そこで、このなかなか気付くことのないパニック発作の前兆症状にはどのようなものがあるのか、主な症状をあげておきましょう。
・生理的前兆(生理的低機能状態)
低血圧であること。脳貧血を起こしやすい。立ちくらみしやすい。夏場に弱い。疲労の蓄積。
睡眠不足が続く。冷え性。お腹が張る。低血糖。全身の筋肉痛。
・行動的前兆(体内時計の狂い、問題をひとりで抱え込む)
生活リズムの乱れ(昼夜逆転の生活)。人に気を使う。他人の期待や要求を断れない。
夜中にパソコンやテレビなど目に刺激の強いことをしている。(体内時計が狂う)
2.パニック発作は、最初はただの生理現象
パニック発作は、いきなり激しい発作として発症するのではないことは前にも述べました。最初は、生理的低機能状態や自律神経の乱れがある時に、バニック症状を引き起こすきっかけとなる様々な場面に直面した際に現れます。このような生理現象は、身体を危険から守り、正常な状態を賦活維持しようとして起こる為、病院などでいくら検査をしても異常は見つかりません。むしろそれは正常に保とうとするからこそ出る症状なので、症状が出ることの方が大切なのです。
たとえば満員電車に乗った際、社内はムンムンして熱気がこもっています。脳は体温を下げるために手足の血管を膨張させて、熱を放出しようと手足の抹消の血管を開き、血液は足の方に下がります。また、さらに立っているために一層血液は足の方に下がってしまい、脳は血流不足となり酸欠状態になる。普通なら自律神経がしっかり働いてくれて血圧や全身の血流をコントロールしてくれるのですが、その機能が(何かの原因で)働かないために血の気がスーッと引いて脳貧血で倒れたり、酸欠で息苦しくなったりするのです。
このようにパニック発作が起こる状況や場面は、他には次のようなものがあります。
・満員電車などに長く立っていた時。
・座ったり横になっていて急に立ち上がった時。
・緊張した状態で自由に身動きできない状況の時。
・狭い部屋の中や電車などの中でムンムン熱気がこもった場所にいた時。
・風呂上りやアルコールを飲んで血圧が下がった時。
・涼しい場所から暑い屋外に出た時。
・便秘をしているとき。
・ガスが溜まってお腹が張っている時。
・コーヒーなどカフェインを多く採った後。
・高速道路の運転など、緊張状態が持続した時。
・緊張から開放されて睡眠に入る時。
・血圧や脈拍が下がっている時。
・急に立ち上がったり緊張する事態になった時。
・緊張していた状態から開放されて血圧や脈拍、体温が下がってしまった時。
このように、パニック発作は生活の中で様々に変動する動きに体の機能がついていかない時に起きることが多いようです。したがって、それらの症状だけでは特に発作として激しいものではないのです。ではなぜ、そのことがそれほどまでに強力な恐れとして心に刻み込まれ、以後の生活をガラッと一変させてしまうのでしょうか。それには次のような心理的要因が絡んでいるのです。
3.パニックになる原因は心理的な要因
未来の不安(予測不能な不安)
上で述べたように、パニック障害になる人は身体的な前兆があり、そこに生活上のキッカケが加わって生理現象としての症状が起きます。そのうえ、心理生活では自分の能力や力では解決できそうにない大きな問題を抱えていたり、どの問題から解決したらよいか分らないとか、いつになったら抱えている問題から開放されるのか見通しが立たない。また、長い期間のストレス状態から開放されて、張り詰めた気持ちが緩んでしまい、次の目標や計画が立てられない状態にある。さらには、自分はやりたくないが立場上どうしてもやらなければいけない状況に置かれるなど、追い詰められたり、引くに引けない、嫌でも進まなければというように逃げ場のない心理状態に追い込まれているのです。
この精神的に追い詰められ、逃げ場のない心理状態の時に、電車やバス、飛行機などの乗物の中や車の運転中に、気分が悪くなったり具合が悪くなったり、倒れそうになった時、“ハッ!”(ハッと反応とも動転反応ともいう)として「どうしよう?なんとかしなくちゃ!」と気が動転するのです。その心理状態の根底にある未来の不安、解決できそうにもない追い詰められた不安が、さらに“もっと具合が悪くなったら...”と先が最悪になることが想像され、その場から逃れようとします。しかし、現実には走っている電車から降りることも渋滞の車の列から逃れることもできません。
つまり、「逃げたいけど逃げられない」気持ちがダブってパニックになり、一気に防衛のためのスイッチが入って、呼吸が浅くなって息苦しくなり、緊張のために心臓はバクバクし、手や足がしびれたりガタガタ震え、脳の血流が下がって脳貧血やめまいが起こり、胃腸や膀胱などの筋肉は収縮して腹痛や頻尿、下痢まで起きてしまうのです。
これらの症状は身体低機能状態で起きる生理現象とは違って、具合が悪くなった後の最悪の結果を恐れて「防衛システム」が発動された結果起きる防衛反応の症状なので非常に激しいものになります。また、パニック障害の精神症状の代表とも思われている「死の恐怖」も、逃げるに逃げられない結果の最悪の事態を想定した際に起きる恐怖なのです。
すなわち、パニック発作というのは、身体的低機能状態による一般的な生理現象に対して心理的に逃げ場のない追い詰められた危機的な心理的状態が、現実の逃げ場のない閉じ込められた空間で起きた生理現象を「何とかしなくては大変なことになる!」とパニックになり、その危機的状況に対して本能的な『戦闘体制プログラム』にスイッチが入って一気に引き起こされた防衛反応なのです。そして、このような生理的低機能の症状と戦闘体制プログラムによる防衛反応の症状を一つの症状だと考え、パニック症状と呼んでいるのです。
4.発作は何度も繰り返されるのではなく、初症以降は自らが起こしている
パニック障害の人に実際話を聞いてみると、症状に違いがあることが分ります。最初の発作の症状はスーッと血の気が引いて倒れるような感じだった。しかし、その後は、「またあのような症状が起こったら嫌だな」と思ったらドキドキしたり息苦しくなった・・とか、最初の発作の時を思い出すと冷や汗が出てきて・・という言い方に変わります。
これはどういうことかというと、「再び同じような症状に襲われること」を想像して不安になったのです。これを『予期不安』と言いますが、この予期不安に襲われて先に述べたように、「なんとかしなくちゃ」と戦闘体制プログラムのスイッチを入れたのです。では戦闘体制プログラムのスイッチが入るとどんな症状が起こるのかを次にお話しましょう。
戦闘体制プログラムが発動された時の身体症状
例えば、強盗に襲われたとしましょう。まさか「ああ強盗か」と平然とはしていられません。“逃げるか戦うか”することで身を守ろうとします。人は何か危機的な状況に陥ると逃げるか戦うかの自己防衛システムを働かせ、その危機的な状況に対処しようとして体はさまざまな反応をします。具体的には次の通りです。
①強盗を見た瞬間、「ハッ!」として息を呑みます。続いて猛烈に浅く早い呼吸になります。人が危険に曝されて、まず最初に起きる身体症状は呼吸なのです。なぜ呼吸が最初かというと、危険な状況で走って逃げたり、戦ったりする時には手足を動かすパワーが必要になります。このため、糖質や脂肪を燃やすための酸素を体内に取り入れなければならないからです。
実際、強盗に襲われた時には取り入れた酸素を消費するので問題は起こりませんが、パニック発作が起こる状況というのは実際には危険ではないため、取り入れた酸素を消費することができません。そのため、脳は酸素と二酸化炭素の比率を正常に戻そうとして「もう酸素はいらないよ」とばかりに酸素を吸い込めなくしてしまいます。すると「息が吸えない、どうしよう!」とさらに不安が増大し、余計に吸ってしまいます。これが過呼吸となり、次第に手足がしびれてきます。すると脳はますます息を吸い込めなくしてしまい、最後には全く吸い込めなくなって気絶してしまいます。この気絶して倒れることも、これ以上酸素を多量に採らせないための体の防衛システムなのですが、他人に迷惑をかけることを恐れて一人で解決しようとするパニック障害の人は、倒れてしまうことを一層恐れるようになるのです。
②次に、取り入れた酸素を危険に対処するために必要な脳や手足の筋肉に送るため、心臓は激しく動いて血液を送り出します。この時、現実には何事もない状況で急激に心臓がバクバク脈打つことに驚いて、“心臓発作なのではないか!”と恐れます。そして、逃げ出すことができない状況で倒れてでもしたら、救急車も間に合わず大変な事になるかもしれないと、最悪の事態になることが予測され心臓は一層激しく暴れることになるのです。
③心臓が激しく打って、血液を脳や手足に送り込むということは、危険な時に血液の流れが非常に良いということです。 しかし、これはさらに2次的な危険を生み出します。それは、そのような危険な状況の時に血液の流れが良いということは、万が一その場でどこかが傷ついたりした場合、傷口から大量の血液が流出して出血多量になる危険が出てくるのです。この時、体の防衛システムは血液中に戦うためのホルモンと言われるアドレナリンとノルアドレナリンを大量に放出します。これらのホルモンは、筋肉や血管を収縮させて、万が一怪我をしても多量の血液が流れ出ないようにするのです。また、もし怪我をしたとしても、血液が早く凝固して傷口を塞いで出血を止め、かさぶたを作って傷口を保護します。しかし、このホルモンの働きによって筋肉や血管が収縮するので、手足の筋肉には痙攣(けいれん)や震えが生じ、喉や口の周り、顔の筋肉も収縮して引きつったり震えたりします。
④防衛システムはこれだけではありません。せっかく心臓からは危険に対処するために多量の血液を手足の筋肉に送り出しているのに、出血多量になる危険から手足の筋肉は収縮に血液が流れにくくなっていまいます。その心臓から送り出した血液は脳に送られるため、手足の筋肉に血液が足りなくなってしまいます。そこで第2次防衛システムは体の不要な血液を集めて手足に送り込もうとします。危機的な状況の際に働く必要がない筋肉。すなわち、胃と腸、そして膀胱の筋肉を収縮させて血液を抜き取って手足に送ります。その結果、胃や腸は急激に収縮して腹痛を起こしたり、下痢を引き起こします。また、膀胱も一気に収縮するので溜まってもいないのにオシッコに行きたくなります。パニックの発作が起きた時にトイレに行きたくなる理由がここにあるのです。
これでおわかりのように、パニック障害の人が訴える症状はほとんどこの防衛システムが発動されたために引き起こされる症状なのです。すなわち、パニック障害の発作は、そのほとんどは最初の症状に驚き恐怖して、さまざまな状況で発作が起こることを想定して恐れ、自ら知らず知らずの内に自己防衛システムのスイッチを押してしまい防衛反応としての身体症状を引き起こし、それを発症時の症状と混同しているのです。
ですから、発作が何度も繰り返されるというのではなく、逃げ場のない場所に行かなくてはいけないとき、自分で対処できそうにない状況に陥る可能性があるような状況に行く前に、発作や逃げ場のない状況を想像して防衛システムのスイッチを押してしまうので、何度も繰り返し発作が起きているように思ってしまうのです。
■パニック障害の治療法
パニック障害の治療法としては、一般的にさまざまな方法が紹介されています。ここでは、その主なものを簡単に説明しましょう。
①精神科で治療する場合
例えば、乗物に乗ることに過敏に反応し過ぎる場合には、抗不安剤を処方されます。この薬は主に副作用がないと言われるSSRIという薬です。強い不安を抑えて乗物に乗れるようにします。どうしても不安が強いようであれば頓服をそのときに飲むように指示されます。
また、そのことをあまりに気にし過ぎて落ち込んでいる場合は気分を持ち上げようとして抗うつ剤を処方します。もともと精神的ストレスなどで身体的低機能状態や自律神経の失調状態があり、ストレスに対処するセロトニンが多量に使われてセロトニン不足に陥り、生活リズムの乱れなどで食習慣などでさらにセロトニンを製造しない体(朝太陽に当たる、リズミカルな運動、食事でトリプトファンを採るなどがセロトニンを増やす)になっています。
本来セロトニンは体内で作り出されるホルモンで、外部から取ると体はますます作らなくなるので、薬物による治療は延々と薬を飲み続けることになる。さらに、実際には怖いので次第に薬を増やしたり強い薬を用いるようになるのです。
また、不安や恐怖を薬で抑えているので、たとえ電車に乗れても「薬を飲んでいるから乗れたんだ」と思うので、薬に依存して薬を止めることができなくなる場合もある。それに、もともとの心理的要因や生活習慣などはまったく改善されないので、完全にパニック障害から開放されることはない。
②心理療法で治療する場合
古典的催眠療法の場合
退行催眠でそれほどの恐怖を感じるようになった過去の嫌な経験を探ります。もし、幼児期にいたずらをして押入れに閉じ込められたとか、家が火事になって逃げ惑った恐ろしい経験があったと判明したとしたら、「その体験はあなたが幼児であったので自分の力で外に出ることができなかったからだ。今は大きくなったので自分の力で脱出することができる」、また火事の際は、「前もって避難路を確認していなかったからで、今のあなたは大人なので、初めての場所に行った時はちゃんと避難路を確認すのだから安心していかれる」と繰り返して暗示する方法がとられます。
また、催眠中に平気で電車に乗っている場面や高速道路を走っているイメージを誘導し、「平気で電車に乗っていますよ」とか「高速道路を楽しい気分で走ることができてます」と暗示して自信をつけます。この退行催眠や催眠分析による古典的な催眠法による暗示法は、分析するだけでも数10回もかかったり、過去の嫌な経験を掘り起こして再体験するので苦痛を伴う。また、心の底から浮かび上がってくる発作の恐怖を、「大丈夫!実際に死ぬことはないし、今のあなたなら対処できる」とプラスの考えで抑え込んでも、恐怖の場に直面すれば実際には怖いのですから次第に恐怖は頭を持ち上げてくるので、効果がなくなったり、延々と何十回も通い続けることになる場合が多いようです。
認知行動療法の場合
パニック障害の人は、パニック発作に対する見方や考え方が間違えていて、恐れる必要がないものを恐れていることを理解させます。例えば、電車やバスなどに乗る際の恐怖心には根拠がないこと。緊急ボタンが設置されていること。周囲に他の乗客がいるので助けてもらえること。また発作で死ぬことはないなど、恐れていることは非現実的なことだと認識させ、現実的な行動をとるように指導していくものです。時には抗不安剤を用いながら少しずつ現実場面に直面していくようにする。
しかし、おわかりのようにパニック障害の人は、実際に電車やバスに危険があるとか、他にも乗客がいるのだとか分っているのです。それに、発作で本当に死んでしまうと信じている人はほとんどいません。でも、なぜだか怖いのです。しかも、他の乗客が大勢いる方が怖いのです。他の乗客がまったくいない方が楽だという人すらいるのです。
さらに、その場で一気に死ぬなら怖くないが、死ぬことではなく倒れている姿をさらす方が嫌だという人もいるのです。心の奥の奥の心理まで分るには数十年の臨床経験が必要なので、理解できないのもムリはありませんが、予期不安、身体的発作症状、死の恐怖、現実回避、家に引きこもるなど、これら全て症状であり、防衛行動なので、本当に恐れているものは何か、そして、その恐れそのものが恐れる必要がないこと、すなわち、防衛システムを発動させる必要がないことを心から受け入れられるようにしない限り、いくらその恐怖が根拠がないとか非現実的であるとかを頭で理解させても、「頭では分っているけど、でも怖い」となり、結局薬で不安や恐怖を抑えるという方向になることが多い。
戦略的短期療法の場合
大抵の治療法は、パニック障害に限らず不安や恐怖、あるいは、その時の身体症状や回避行動を問題にしています。しかし戦力的短期療法は、不安も恐怖心も身体症状も回避行動も、すべて本人にとって必要なものであり役に立っていると考えるのです。
突然起きた症状にビックリし、逃げたくても逃げられない状況で最悪の事態を想像してしまうこともごく当然のこと。そして、最悪の事態に対して、「何とかしなくちゃ!」と自己防衛システムのスイッチを押す。これも極々当然であり必要なことなのです。つまり、パニック症状は、その人なりの解決方法なのです。
パニックの人は、徐々に電車に乗れない、外出できない、高速道路を走れないなどの現実生活に支障をきたすようになってきます。そして、重症化すると家から一歩も出られなくなると言われます。しかし、これらの症状といわれる状態は、実は症状ではなく本人なりの解決策なのです。
はじめのうちは、予期不安のために多少ドキドキしたり緊張したりしても、電車ではドア付近に乗り、すぐ降りられる体制をとったり、信頼できる人に一緒に乗ってもらうなどの対処をします。また、特急電車などの駅間の長い乗物を避けて普通電車に乗るとか、込んでいる電車を避けて空いている電車に乗るなど、次第に逃げ場のない
場所や状況を避けるようになるのです。そうして最後には家から1歩も出ないで引きこもってしまいます。
ですから、正しくは電車やバスに「乗れない」のではなく自分なりの対処法として「乗らない」のです。「外出できない」のではなく、自分の対処法として「外出しない」のです。電車に乗れないとか外出できないというのではなく、その場で具合が悪くなったり何かあったら自分では対処方法がないので乗らない、行かないという回避行動をとっているのです。自分で対処できなくても、信頼できる誰かがそばにいて対処してもらえるのであれば乗れたり行かれたりするのはそのためなのです。
パニック障害の家族の人は、電車やバスが怖いということが理解できません。まして美容院や歯医者やレジに並ぶことすら怖いと言われたらますます理解できません。それこそ、「我がままで甘ったれているのだろう」とか、「働きたくないからだろう」くらいにしか思えないのでしょう。
大抵、当人もわかっているのです。発作も身体的な症状であって、それ自体は死ぬことはないということも...でも怖いのです。そこにヒントがあるのです。すなわち、発作を恐れているのではなく、発作が起きた後のことを恐れているのです。
では発作が起きた後のこととはなんでしょう。それは当人には分りません。なぜなら、初めて症状が起きて以降は発作を恐れ、その対策に終始してきたので自分でも本当は何を恐れているのかは分からなくなっているのです。毎日毎日、気持ち悪くなったり具合悪くならないかと体調を気にし、食べ物を吟味し、出かける場所や家からの距離を気にし、乗物や乗る場所を選び、トイレの場所まで予め調べるなど、発作が起きたときの対処法や発作が起きないように事前の対策にばかり気をとられた生活を何年も何年も続けているので、いったい自分は何を恐れているのかが分からなくなっているのです。
(続く)
戦略的短期療法についてはこちらをご覧ください
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